雑学研究

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ロシア文学

10-17世紀

キーエフ時代(10〜13世紀)
キーエフ・ルーシ
 かつてロシアはルーシと呼ばれ、ロシアという名が一般化したのは18世紀である。 ロシア人の祖先のスラブ人が種族間の争いを抑えるために、 ノルマン人のリューリックを王として迎え、キーエフを中心にロシア最初の国家が生まれた。 この国家をキーエフ・ルーシと呼ぶ。
 キーエフはウラジミール一世時代にヴィザンチン帝国のギリシャ正教を国教と定めた。 権力による上からのキリスト教とキリスト教移入以前の多神教やアニミズムと融合する。

キーエフ文学
 年代記『過ぎ去りし年月の物語(原初年代記)』
  歴史的記述、聖書、スラブの伝説
 宗教文学『修道院長ダニールの旅』
  パレスチナへの聖地詣での旅行記
 英雄叙事詩『イーゴリー公軍記』
  遊牧民の討伐に向い、敗北して捕らわれるが、脱出して帰還した史実

タタール時代(13〜15世紀)
タタール
 ロシアはタタール(トルコ系モンゴル族)に1240年から240年間にわたって支配され、 西欧文明とは異なる半アジア的な歴史を歩む。 モスクワは、地理的条件を利用し、タタールに貢物を捧げ、 1328年に全ロシアからタタールへの貢物を取り立てる役目を買い取った。

歴史物語
 『抜都リャザン襲撃の物語』
  リャザン一国がロシアの命運をかけて戦うが全滅
 『ザドーンシナ』
  ロシア諸侯がタタール軍に勝利

モスクワ時代(15〜17世紀)
モスクワの台頭
 ロシアの統一と独立を進めたイヴァーン三世は、ヴィザンチン帝国崩壊後、 ヴィザンチン帝国の紋章である双頭の鷲を継承し、自らを皇帝と名乗ることで、 正教会の守護者の位置がモスクワに移った。 かくして、ロシアが世界を救うという「第三のローマの理念 (第一のローマは異端に陥り、第二のローマであるコンスタンチノーポリは 東西教会合同という裏切りのために異教徒に征服され、 第三のローマであるモスクワは永遠のローマである。 それゆえ、ロシア皇帝はキリスト教徒の首長たる位置を神託されている)」の素地ができた。
 イヴァーン三世の孫のイヴァーン雷帝の時代は、専制主義と農奴制が発達させ、各地で農民一揆が頻発した。

16世紀の文学:政治的意図の文学
 帝権系譜書『ブラジミール諸侯物語』
  皇帝権を理論づけ、中央集権国家を形成させるために作成
 『イヴァーン雷帝とクールプスキイ公の往復書簡』
  中央集権化の是非を問う政治評論文

17世紀の文学:世相、教会、貴族を写実的に風刺
 『不幸物語』
  教会道徳に逆らう若者の生き方
 『フロール・スコベーエフの物語』
  出世のために女性を利用し、最後に富を得る
 『シェミャーカの裁判』
  裁判制度の腐敗を風刺

ペテルブールク時代(18世紀)
ピュートル大帝とエカテリーナ二世
 ピュートル大帝は政治・経済・文化・風俗を西欧化し、富国強兵の実利主義を目指した。 だが、貴族階級は西欧風の生活様式で暮らす一方、 農民階級は農奴制という伝統的様式を守り、両者の溝が深まった。
 エカテリーナ二世は、初期にフランス啓蒙思想に共鳴し、自由主義的な政治を行ったが、 やがて中層貴族の支持を維持するために、貴族の国家勤務を解放し、農奴制を強めた。 困窮した農民がプガーチョフを首領に大農民反乱(1772-1775)を起こし、 それを鎮圧した貴族に報償として広大な農地を与え、さらに農奴制が強化された。 しかし、フランス啓蒙思想の普及は貴族知識人を生み出した。

クラシシズムの台頭と退潮:国家的理念が優先、理性を崇拝
 悲喜劇『ヴラジミール』(フェオファン・プロコポーヴィッチ 1681-1736)
  絶対王制を確立するためのピョートルの戦い
 『ロシヤ簡易作詩法』(トレジャーコフスキー 1703-1769)
  言文一致、音節詩よりも力点を中心にする詩
 諷刺雑誌『雄蜂』(ノーヴィコフ 1744-1818)
  貴族や僧侶の頽廃、官吏の収賄などを徹底的に暴露し、批判
 喜劇『旅団長』『未成年』(フォンヴィージン 1742-1791)
  農奴制社会が人間を奇形化することの批判

センチメンタリズム:個人の感情解放、権利と尊厳の主張
 『ペテルブルクからモスクワへの旅』(アレクサンドル・ラジーシェフ 1749-1802)
  農奴制を批判し、暴君を断頭台に送る民衆の権利を唱える
  市民的、急進的センチメンタリズム
 『哀れなリーザ』(カラムージン 1766-1826)
  百姓の花売りリーザが貴族の青年エラストに捨てられる憂鬱
  小市民的、牧歌的センチメンタリズム

19世紀の文学
アレクサンドル一世
 エカテリーナ二世の孫のアレクサンドル一世は、 学校設立、拷問廃止、検閲緩和、行政改革などの自由主義的改革を行った。
 1812年、ナポレオン戦争(祖国戦争)が始まる。 農民はパルチザン戦を展開し、ナポレオン軍を追撃してパリを占領した。 だが、凱旋後、青年士官は同士が農奴の身分である現実に直面し、政治制度に対する疑問が生じた。
 1816年、青年貴族は秘密結社「救済同盟(福祉同盟)」を組織して反乱を起こしたが、民衆を組織せずに失敗した。 しかし、専制主義に対する挑戦は精神的・道徳的影響を残す。

ロマンチシズム:現実への幻滅
 市民的ロマンチシズム:農奴制や専制主義に抗議
 『ヴォイナローフスキー』(ルイレーエフ 1795-1826)
  ウクライナ民族独立運動の指導者を歌った
 『ナリヴァイコ』(ルイレーエフ)
  16世紀末のポーランドとの戦い
 『ドゥーマ詩集』(ルイレーエフ)
  ウクライナの口承英雄叙事詩
 貴族的ロマンチシズム:満たされぬ思いを夢の中に求める
 『スヴェトラーナ』(ジュコーフスキー 1783-1852)
  乙女の恋、幸福への憧憬

リアリズム:現実の本質を客観的に描写する
 205篇の寓話(クルイローフ 1769-1844)
  人間と動物が人間の醜さ、おかしさ、弱さ、悲しさをさらけ出す
 『知恵の悲しみ』(グリボエードフ 1795-1829)
  フランスから帰国した青年チャーツキーが現実に絶望して旅にでる

プーシキン (1799-1837)
  明るい希望、勝利の予感、生の歓喜、人間への信頼、民衆への信頼を描く
 『ルスラーンとリュドミーラ』
  民族的叙事詩
 『コーカサスの捕虜』
  青年がコーカサスの山岳民族に捕えられ、美しい娘に愛され助けられるが、青年は愛を受け入れず、娘は川に身を投じる
 『ジプシー』
  青年アレーコがジプシーの娘ゼムフィーラと放浪生活を始めるが、娘の愛は他の男に移り、アレーコは2人を刺し殺す。 醜悪な現実を嫌悪して自由を求めるが、あくまでも利己主義的な自由で、他人の自由が現れて終わる。
 史劇『ボーリス・ゴドゥノーフ』
  ロシア国家の形成
 叙事詩『アリオーン』
  難破船から詩人だけが生き残り、一人寂しく前と変わらぬ同じ歌をうたう
 小説『ピュートル大帝の黒奴』
  ピュートル大帝の個性と仕事
 叙事詩『ポルターヴァ』
  コサック首領のマゼッパの反逆
 叙事詩『青銅の騎士』
  ピュートルの歴史的事業の背後で踏みにじられた人間の幸福と平安
 『ベールキン物語』
  娘を貴族に取られた駅長の哀しみを描いた「駅長」を含む5つの短編集
 韻文小説『エヴゲニー・オネーギン』
  知識と才能を活かす場所がなく、遊戯に精力を使い果たして内面的に腐敗した貴族青年オネーギンと、 田舎地主の娘で清純・素朴・誠実なタチヤーナを対照的に描く
 未完小説『ドゥブローフスキー』
  領主争いから盗賊の首領になり、悪徳地主と戦う青年貴族を描く
 短編『スペードの女王』
  資本主義が生み出した醜悪なゲルマンは金のために恋人を利用する
 小説『大尉の娘』
  プガチョーフの農民反乱の真の姿を青年貴族グリニョーフを通して明らかにする